新ブランド「むさしの森珈琲」成功の舞台裏
昨年、立て続けに3店舗をオープンしたむさしの森珈琲の年商平均は1億7千万円。
多くの方に注目され、躍進を遂げた背景には何があったのか。舞台裏に迫ります。
PART1 インタビュー: ブランド開発の全過程で「こだわり」を発揮
むさしの森珈琲をトータルプロデュースした久保木さんに、新ブランド立ち上げの意義や開発の背景について聞きました。
二ラックス(株)ディレクター 久保木 稔
高校1年時、「すかいらーく板橋相生店」にクルーとして入社。大学受験のため一旦退社するも復帰し、すかいらーく、ガストのクルーとして大学4年間勤務した。1995年に新卒入社、マネジャーを経て2005年から本部に配属。ガスト、グラッチェガーデンズ等のメニュー開発などを担当し、2014年より現職。むさしの森珈琲立ち上げでは、ディレクターとして全体の指揮をとった。現在は5月にオープン予定のとんかつの新業態を企画中。
新ブランドで新たな顧客層を開拓
――新ブランドを立ち上げる理由、また意義についてどう考えていますか。
すかいらーくでは常にマーケットのニーズに合わせてブランドの配置転換を行っています。しかし既存ブランドでは、そのニーズに対応しきれないことがある。そうした場合に踏み切るのが、新ブランドの立ち上げです。さらに最近ではエリア内でカニバリ(自社競合)を起こしている際、この一つを新ブランドにする戦略をとっています。新たな顧客層を開拓することでエリア全体の売り上げを底上げするためです。
実際にむさしの森珈琲では、これまでファミリーレストランに縁遠かった層を呼びこむことに成功し、同エリアのガストやバーミヤン、グラッチェガーデンズの売上アップに大きく貢献することができました。
――新ブランドの立ち上げを通して感じた、すかいらーくグループの強みを教えてください。
全国に約3000の店舗を有するすかいらーくには、強固なインフラが備わっているということです。その強みが顕著に現れるのが、食材調達面。新業態を1店舗だけオープンする場合でも、100店舗経営するのと同じ額の原価で購入することができます。また多様な業態で培ってきたメニュー開発力やオペレーション力が基盤にあるため、他社よりも有利な条件でブランド開発にのぞめます。
大切なのは、常に先を見据えること
――オープンして以来、好調を見せるむさしの森珈琲。開発の背景にはどのような努力があったのでしょうか。
PART2で詳しく紹介しているように、競合調査からメニュー開発、空間づくりに至るまで、全てのステップにおいて「こだわり」を発揮しました。どうすれば受け入れられるのか、どうすれば喜ばれるのか、お客様の目線に立って考え抜いたんです。さらにオープン後も改善活動を続けたことで、成長に拍車がかかったのだと思います。
――全国のマネジャーやクルーへメッセージをお願いします。
変わり続けるマーケットの中で、むさしの森珈琲の好調がこのまま続いていくとは限りません。大切なのは、成果が出なくなった時にリカバリーできるプランを何通りも用意しておくこと。次の打ち手を考えておけば、いざという時に早急に対処でき、閉店に追い込まれる事態を避けることができます。これは既存ブランドでも同じ。現状に満足せず、常に半年、一年先を見据えてお店づくりをしていきましょう。
PART2 開発ストーリー: 躍進への道筋
開発過程から、躍進のヒミツをひも解きます。
00 マーケット動向をウォッチ
伸びている市場、成長余地のある市場を常にウォッチする。
01 新業態を「郊外型カフェ」と位置付け、出店を決定
近年のマーケットで「郊外型カフェ」が売り上げを伸ばしていることに着目。成長の余地が大きい業態であると考えた。
02 競合他社を調査
話題となっているお店を中心に、徹底的に競合視察を行う。まずは“現地現物”確認から。
-久保木の視点:「人気の理由を知る。徹底的に」
セブンイレブン、マクドナルド、スターバックス、コメダ珈琲店にホテルオークラ。数えきれないほどあらゆるコーヒーを飲み干した。1日に10件をハシゴするペース。足繁く通い、人気の理由を徹底分析。ポイントは、味、価格、店舗のデザインやサービスなど。
03 ターゲット&コンセプト決め
競合他社の状況とマーケットニーズを知った上で、狙うべき客層とコンセプトを決定。特に30~50代の女性をターゲットに定め、ゆったりとくつろげる「癒しの空間」をコンセプトに掲げた。
04 収益モデルの作成
収益モデルを作成。初年度の客単価を1,000円程度に設定し、売上高1億5,000万円を目標とした。
05 メニューを設計
収益モデルを元に、ターゲットやコンセプトに合うメニューを設計。競合他社の持ち味を参考にしつつ自社の強みを生かし、差別化を図れるメニューの開発に尽力。
-久保木の視点:「“ここでしか食べられない”に人は惹きつけられる」
ブームであるパンケーキを看板商品に。ただし集客を上げるには“むさしの珈琲ならでは”を打ち出す必要があった。そこで考えたのが、注文ごとにメレンゲをたてて焼き上がる「ふわっとろパンケーキ」。ふんわりした食感で絶大な支持を得た。実は軽い食感を表現した理由には、食後に食べてもらいたいデザートとして開発した意図もあった。客単価を上げるための、戦略の一つ。
06 デザインを設計
デザインコンセプトの「高原リゾートの珈琲店」にふさわしい外観や内装決め。席数を確保しつつも、くつろげる空間づくりに奔走。家具選びにもこだわり抜いた。
-久保木の視点:「“ゆとりの癒し空間”はお客様がそう感じて、初めて実現する」
コンセプトを形で終わらせないためにも、内装は特に重要なポイントだった。家具選びにも妥協はない。椅子一つとっても、競合店のほとんどの椅子に腰かけて座り心地を確かめたほど。一つひとつの家具や縁の配置にこだわりを込めた。
07 オペレーションの構築
サービスコンセプトを「優しく寄り添う」に。またメニュー構成をもとにキッチンレイアウトを作成。
08 求人活動
時給を上げれば単に人が集まる時代ではない。求人では、未経験から「バリスタ」「パティシエ」の技を身に付けられることを打ち出した。結果、応募数はなんと100人を超えた。
09 販促・オープン準備
模擬営業スタイルでのトレーニングを中心に、オープン初日からお客様に満足していただけるようトレーニング。販促も2重3重の備えを用意。
10 オープン後の分析
「サービスは追いついているか?」「パンケーキは基準通りに提供されているか?」などコアな部分を確認。問題を発見するたびに改善を試みた。
-久保木の視点:「オープンがゴールなのではない」
ブランドを成長させるためには、オープン後も改善の繰り返しが必要不可欠だ。むさしの森珈琲では、教育が行き届かずに残念な仕上がりの料理を提供してしまうことがあった。料理の写真を撮ってSNSにアップするお客様が多い中、これは致命的。『運ばれてきた料理を見て、お客様が感動する盛り付けをしよう!』を合言葉に、クルーの意識改革に取り組んだ。
※所属部署、役職およびインタビュー内容は取材時(2016年3月)のものです。
※出典:社内報「ひばり」2016年3月号